
ウェビナーを活用した第一想起を勝ち取りに行く手法とは?
はじめに:なぜウェビナーを開催しても成果につながらないのか
「ウェビナーを開催しても期待する成果が得られない」「参加者は集まるものの商談に繋がらない」「投資対効果が見えにくい」――SaaS企業のマーケティング担当者の皆様は、このような悩みを抱えていませんか?その根本的な原因は、ウェビナーの設計思想にあるのかもしれません。
現代のBtoBマーケティングでは、従来の「商談獲得型ウェビナー」から「第一想起獲得型ウェビナー」への転換が求められています。本記事では、商品やサービスを購入しようと思ったときにブランドを想起するきっかけやヒントのことを指すカテゴリーエントリーポイント(CEP)の概念を応用した、全く新しいウェビナー戦略の実践方法を詳細に解説します。
なぜ今CEPマーケティングなのか?購買行動の根本的変化
顧客の情報収集行動が劇的に変化している現実
現在のBtoB購買プロセスにおいて、顧客が営業担当者と接触する前に、すでに購入候補を絞り込んでいるという事実をご存知でしょうか。シリウスディシジョンの調査によれば、購買者の67%が営業担当者との初回面談前に購買プロセスの大部分を完了しています。
この変化により、従来の「比較検討段階での優位性獲得」という戦略には限界があります。重要なのは、顧客が課題を認識し、解決策を探し始める段階で「真っ先に思い浮かぶ企業」となることです。この「想起の段階」での競争こそが、現代マーケティングの核心なのです。
FanGrowthがウェビナー支援を行った企業の事例では、CEP戦略を導入することで、集客数が同程度でも商談の質が大幅に向上し、平均して受注率が40%向上しました。これは偶然ではなく、想起段階での関係構築が商談フェーズでの信頼関係に直結するためです。
SaaS企業が直面する「認知の谷間」問題
多くのSaaS企業が直面している課題の一つに「認知の谷間」問題があります。認知の谷間とは、企業名や製品名は知られているものの、顧客が具体的な課題に直面した際に想起されない状況を指します。
例えば、CRM製品を提供している企業が「顧客管理システム」としては認知されていても、「営業効率が悪くて困った」「顧客情報の管理に課題を感じた」「売上予測の精度を上げたい」といった具体的な課題が生じた際に想起されなければ、検討対象にはなりません。
CEP(カテゴリーエントリーポイント)マーケティングは、まさにこの課題を解決するアプローチです。顧客の課題認識から解決策探索までのプロセスにおいて、戦略的に想起される仕組みを構築します。ウェビナーは、この仕組み構築において極めて効果的なツールとなります。
CEP視点でのウェビナー戦略:従来手法との決定的な違い
売り込み型から教育型への根本的転換
従来のウェビナーはとにかく成果につなげたいがために、「製品・サービスの優位性を伝えて商談を獲得する」ことが主目的でした。しかし、CEP戦略におけるウェビナーは「参加者の課題解決能力を高め、信頼関係を構築する」ことが主目的となります。理由を後述します。
この違いは、コンテンツ設計から集客方法、フォローアップまで全ての要素に影響します。例えば、従来型では「弊社製品を使うとこれほど効率が上がります」という訴求が中心でしたが、CEP型では「このような課題に対しては、このような解決アプローチが効果的です」という課題起点の情報提供が中心となります。
参加者との関係性構築における戦略的設計
CEP戦略では、ウェビナー参加者との関係性をどのように構築し、どのような印象を残すかが極めて重要です。
参加者がウェビナー終了後に感じるべき印象は「この会社の製品が欲しい」ではなく、「この会社は信頼できる専門家だ」「困ったときは相談しよう」というものです。
この印象を形成するためには、登壇者の専門性の伝え方、参加者とのコミュニケーション方法、提供する情報の質と深度、フォローアップのタイミングと内容など、全ての要素を戦略的に設計する必要があります。
特に重要なのは、参加者の学習段階に応じた適切なレベルの情報提供です。初心者向けには基礎知識と課題認識の支援を、中級者向けには実践的なノウハウと事例を、上級者向けには最新トレンドと高度な手法を提供するというように、参加者のニーズに精密にマッチした価値提供を行います。
実践的なCEP×ウェビナー設計メソッド
ステップ1:想起シーンマッピングの具体的手法
CEP戦略の成功は、正確な想起シーンの特定から始まります。想起シーンとは、顧客が具体的にどのような状況で課題を認識し、解決策を求めるようになるかという場面です。
まず、既存顧客への詳細なインタビューを実施します。
「弊社のサービスを検討し始めたきっかけは何でしたか?」
「その課題をどのように認識しましたか?」
「最初にどのような情報を探しましたか?」
といった質問を通じて、課題認識から情報収集までのプロセスを詳細に把握します。
次に、営業チームからのヒアリングを行います。
「顧客からの初回問い合わせではどのような相談が多いですか?」
「どのようなきっかけで問い合わせをいただくことが多いですか?」
「顧客が抱えている根本的な課題はどのようなものですか?」
といった情報を収集します。
これらの情報を基に、想起シーンマップを作成します。縦軸に課題の深刻度、横軸に課題認識のタイミングを設定し、各想起シーンを配置します。このマップが、ウェビナーコンテンツの設計指針となります。
ステップ2:参加者ペルソナの課題認識段階別設計
CEP戦略におけるペルソナ設計は、従来の属性ベースのアプローチから課題認識段階ベースのアプローチへと転換します。同じ役職、同じ業界の人でも、課題認識の段階によって求める情報や参加動機が大きく異なるためです。
課題認識段階は大きく4つに分類されます。
第一段階:「無自覚期」
まだ明確な課題を認識していないものの、漠然と現状に不満を感じている状態です。この段階の参加者には、課題を明確化するための情報提供が効果的です。
第二段階:「課題認識期」
課題は認識しているものの、具体的な解決策がわからない状態です。この段階では、解決策の選択肢と評価基準の提供が求められます。
第三段階:「情報収集期」
解決策の候補を絞り込み、具体的な比較検討を行っている状態です。この段階では、詳細な実装方法や成功事例の提供が有効です。
第四段階:「意思決定期」
最終的な判断を下そうとしている状態です。この段階では、リスク軽減と導入後の成功イメージの提供が重要です。
ステップ3:コンテンツ設計における価値提供の最大化
CEP戦略におけるウェビナーコンテンツは、参加者にとっての学習価値を最大化することが最優先です。そのためには、コンテンツの構成要素を戦略的に設計する必要があります。
導入部分では、参加者の課題認識を明確化させる情報を提供します。業界動向、統計データ、他社事例などを活用し、参加者が抱えている課題の重要性や緊急性を再認識できるような内容を構成します。「今自社が解決しないといけない課題はこれだ」と思わせられたらベストです。
メイン部分では、課題解決のための具体的なアプローチを体系的に解説します。理論的な背景から実践的な手法まで、参加者が実際に活用できるレベルの情報を提供します。重要なのは、自社製品に依存しない汎用的な解決手法を中心とすることです。
事例紹介部分では、成功事例だけでなく、失敗事例や試行錯誤のプロセスも含めたリアルなストーリーを共有します。参加者が自社の状況と照らし合わせて具体的な実装イメージを描けるような詳細な事例を選択します。
Q&A部分では、参加者の個別課題に対してその場で具体的なアドバイスを提供します。この対応の質が、参加者の信頼度に直結するため、登壇者には十分な準備と専門知識が求められます。
企業規模100名での効率的運営ノウハウ
リソース制約下での持続可能な運営体制構築
従業員100名程度のSaaS企業では、限られた人的リソースの中で最大の効果を得るための工夫が必要です。まず重要なのは、ウェビナー運営を特定の担当者に依存しない仕組みづくりです。
マーケティング担当者が企画・集客を担当し、営業担当者が登壇・フォローアップを担当する役割分担を明確にします。また、カスタマーサクセス担当者には事例提供や参加者のその後の状況把握を依頼します。このように、組織全体でウェビナーを支える体制を構築することで、持続可能な運営が可能になります。
一部のリソースに限定してウェビナーを運営した場合、事例紹介は絶対的にカスタマーサクセス担当者が説明した方が参加者への理解度がかなり高いです。このような例が様々な場面で想定されるため、特定の担当者に限定したウェビナー運営は禁忌といえるでしょう。
またコンテンツ制作においては、既存の営業資料や提案書、顧客向け説明資料を効果的に活用します。新規でコンテンツを作成するのではなく、既存資料をウェビナー用に再構成することで、制作コストと時間を大幅に削減できます。ただウェビナーはリピート参加する方も多いので同じ資料を多用していると既視感が出てくるため、満足度を上げていくためには新しい資料を織り交ぜることにも注意しましょう。
コスト効率の高い集客戦略の実装
限られた予算の中で質の高い参加者を集めるためには、戦略的な集客アプローチが必要です。最も効果的なのは、既存顧客やパートナー企業との協力による集客です。
既存顧客に対しては、「業界の最新動向を学べる機会」として案内し、同業他社の参加者との交流機会も提供します。顧客にとってのネットワーキング価値を高めることで、積極的な参加を促進できます。
パートナー企業との共催ウェビナーは、双方の顧客基盤を活用できるため、集客効率が大幅に向上します。また、複数の視点からの情報提供により、参加者にとっての価値も高まります。
SNSを活用した集客では、登壇者個人のアカウントからの発信を重視します。企業アカウントからの案内よりも、専門家個人からの推薦の方が参加動機を高めやすいためです。
効果測定と改善サイクルの確立
CEP戦略の効果測定には、従来の参加者数や商談創出数だけでなく、想起に関する指標が重要です。ウェビナー終了後のアンケートでは、「今後同様の課題に直面した際に、最初に相談したい企業はどちらですか?」という質問を必ず含めます。
参加者の継続率も重要な指標です。シリーズウェビナーでの継続参加率、メールマガジンの開封率、SNSでのエンゲージメント率などを継続的に測定し、関係性の深化度合いを把握します。
長期的な効果として、ウェビナー参加者からの自発的な問い合わせ率、商談化した際の受注率、契約までの期間短縮効果なども追跡します。これらのデータを基に、コンテンツや運営方法の継続的改善を行います。
成功事例から学ぶ実践ポイント
事例1:HR-Tech企業の段階的関係構築戦略
従業員100名のHR-Tech企業A社では、人事担当者向けのウェビナーシリーズを通じてCEP戦略を実装しました。同社の課題は、「人事システム」としては認知されているものの、「組織課題解決のパートナー」として想起されていないことでした。
第一段階では、「働き方改革の実現に向けた組織課題の特定方法」というテーマで、システム導入とは無関係な組織論を中心としたウェビナーを開催。参加者からは「実践的で役立つ情報だった」「他社の取り組み事例が参考になった」という高評価を獲得。
第二段階では、「データドリブンな人事施策の設計と効果測定」というテーマで、分析手法や指標設計に焦点を当てたコンテンツを提供。この段階でも製品紹介は一切行わず、純粋な価値提供に徹しました。
第三段階で初めて「システム活用による効率化事例」を紹介しましたが、この時点で参加者の多くがすでにA社を「人事領域の専門家」として認識していたため、高いエンゲージメントを維持できたのも事実です。
結果として、ウェビナーシリーズ開始から6か月後の調査で、ターゲット企業の72%が「人事課題で困った際に最初に相談したい企業」としてA社を挙げるようになりました。
事例2:営業支援SaaS企業の業界特化戦略
従業員80名の営業支援SaaS企業B社では、業界に特化したCEP戦略を展開しました。同社は幅広い業界に対応可能な汎用的な製品を提供していましたが、「営業効率化」という課題で想起される企業になることを目標としました。
まず、製造業に特化したウェビナーシリーズを開始しました。「製造業における営業デジタル化の課題と解決策」「技術営業の効率化に向けた情報管理手法」「顧客との長期関係構築のためのCRM活用法」など、業界特有の課題に焦点を当てたコンテンツを提供。
重要だったのは、製造業出身の営業担当者を登壇者とし、業界の内情を深く理解した専門家として認識されるよう工夫したことです。参加者からは「同じ業界出身だからこそ理解できる課題と解決策だった」という評価を得ました。
また、製造業の既存顧客にゲストスピーカーとして登壇してもらい、リアルな導入体験談を共有してもらいました。これにより、参加者は具体的な実装イメージを描くことができ、信頼性も大幅に向上しました。
この戦略により、製造業セグメントにおける受注率が従来の1.8倍に向上し、商談期間も平均で30%短縮されました。現在は、他業界でも同様のアプローチを展開しています。
事例3:会計ソフト企業の課題起点コンテンツ戦略
従業員120名の会計ソフト企業C社では、「経理業務の効率化」という課題で第一想起を獲得するための戦略を実装しました。同社の特徴は、技術的な機能説明ではなく、経理担当者の業務課題に徹底的に寄り添ったコンテンツ設計にありました。
「月次決算を5日短縮するための業務プロセス見直し手法」「経理担当者が知っておくべき税制改正のポイントと対応策」「小規模企業における内部統制の実践的な構築方法」など、システム導入とは独立して、ユーザーにとって価値のあるテーマを選択しました。
特に効果的だったのは、「経理あるある」というシリーズで、経理担当者が日常的に直面する小さな困りごとを取り上げ、システムに依存しない解決方法を紹介したことです。このシリーズは参加者からの共感が高く、SNSでの拡散も多く発生しました。
また、税理士や公認会計士を外部講師として招き、「会計ソフト企業主催だからこそ聞ける専門家の本音」というポジショニングで差別化を実施。参加者は無料で専門家のアドバイスを受けられることに価値を感じ、継続的な参加につながりました。
この取り組みにより、ターゲット企業における「経理効率化といえば○○社」という認知度が大幅に向上し、自然検索からの流入も増加しました。
CEP×ウェビナー戦略の成功要因と失敗パターン
成功企業に共通する5つの要因
成功している企業に共通する要因は5つあります。
第一の要因は、「顧客の課題に対する深い理解」。表面的な課題だけでなく、顧客が言語化できていない潜在的な課題まで把握し、それに対応したコンテンツを提供することが重要です。
第二の要因は、「一貫したメッセージングの維持」です。ウェビナーだけでなく、ブログ、SNS、営業資料まで含めて一貫したポジショニングを維持し、顧客の記憶に定着しやすい環境を作っています。
第三の要因は、「継続的な価値提供の仕組み化」。単発のウェビナーではなく、参加者の学習段階に応じた体系的なコンテンツ提供を行い、長期的な関係構築を実現することを目指します。
第四の要因は、「参加者との双方向コミュニケーション」です。一方的な情報発信ではなく、参加者の質問や課題に対して真摯に対応し、個別の関係性を構築することが重要です。
第五の要因は、「効果測定と改善サイクルの確立」。想起に関する定性的な指標も含めて効果を測定し、継続的にコンテンツや運営方法を改善しています。
よくある失敗パターンとその対策
ここで最も多い失敗パターンを紹介します。
第一に、「短期的な成果を求めすぎること」です。CEP戦略は中長期的な取り組みであり、即座に商談が増加することを期待すると挫折しやすくなります。最低でも6か月から1年の期間で効果を評価することが重要です。あくまでユーザーとの信頼関係を構築することに徹しましょう。
第二に、「自社製品の話を早い段階で持ち出すこと」。参加者との信頼関係が構築される前に製品説明を行うと、「売り込み感」が強くなり、教育的価値が低下します。製品に関する言及は、十分な信頼関係が構築された後に留めるべきです。
第三に、「コンテンツの質よりも量を重視すること」です。頻繁にウェビナーを開催しても、内容が薄いと参加者の満足度は低下し、継続参加率も下がります。月1回程度の頻度で、質の高いコンテンツを提供することが効果的です。
第四に、「参加者のフォローアップを軽視すること」です。ウェビナー終了後のフォローアップがなければ、せっかく構築した関係性が維持できません。定期的なメール配信や個別のアプローチを通じて、継続的な関係維持を行うことが必要です。
今後のウェビナー戦略展望とアクションプラン
CEP時代のウェビナー進化の方向性
今後のウェビナー戦略は、よりパーソナライズされた体験の提供に向かうと予想されます。
参加者の課題認識段階や関心領域に応じて、動的にコンテンツを調整するアダプティブ・ウェビナーの概念が重要になります。アダプティブとは「適応性のある」という意味になりますが、参加者の課題認識段階や関心領域に応じてユーザー起点の内容が盛り込まれたウェビナーになると参加者の満足度や信頼度はもちろんのこと、成果につながりやすくなる現象が起こります。
また、ウェビナー単体ではなく、他のマーケティング施策との統合がより重要になります。コンテンツマーケティング、SNSマーケティング、メールマーケティングとの連携により、顧客との接点を多面的に構築する必要があります。
さらに、AI技術の活用により、参加者の行動分析や興味関心の把握がより精密になり、個別最適化されたフォローアップが可能になると考えられます。
~まとめ~明日から始められる具体的アクション
CEP×ウェビナー戦略を始めるために、まず実施すべきは既存顧客への課題認識プロセスのヒアリングです。「弊社サービスを検討し始めたきっかけ」「最初に感じた課題」「情報収集の方法」について詳細な聞き取りを行い、想起シーンを特定します。
次に、営業チームとのディスカッションを通じて、顧客からの問い合わせパターンを分析します。どのような課題で相談を受けることが多いか、どのような状況で問い合わせが発生するかを整理し、ウェビナーテーマの候補を抽出します。
第三のステップとして、小規模なパイロットウェビナーを企画・実行します。参加者数よりも参加者の満足度と学習効果を重視し、コンテンツの質を最大化することに集中します。
最後に、参加者からのフィードバックを詳細に収集し、想起に関する定性的な評価を把握します。「同様の課題に直面した際に最初に相談したい企業として認識されているか」という観点で効果を測定し、次回の改善につなげます。
現代のSaaS企業にとって、CEPベースのマーケティング戦略は競合他社との差別化を図る重要な手段となっています。ウェビナーは、この戦略において他の施策では代替できない独自の価値を提供し、第一想起獲得のための強力なツールとなります。
重要なのは、従来のリード獲得型の思考から脱却し、長期的な関係構築と信頼醸成に焦点を当てることです。参加者にとっての真の価値を追求し、継続的な学習機会を提供することで、「困ったときに最初に相談される企業」としてのポジションを確立できます。
FanGrowthでは、このCEP×ウェビナー戦略の実装支援を通じて、多くのSaaS企業の持続的成長を支援しています。第一想起獲得という新しい競争軸において、ウェビナーの戦略的活用を検討されている企業の皆様は、ぜひ一度ご相談ください。